旅館業法(簡易宿所)の営業許可申請|基準緩和と必要書類のポイント

民泊
民泊を営業する方法は、住宅宿泊事業だけではありません。

一定の条件を満たせば、旅館業法による「簡易宿所営業」の許可を取得して宿泊施設を運営する方法があります。

特に、宿泊者数を10人未満として申請する小規模な施設では、客室面積について「1人あたり3.3㎡以上」という基準が設けられています。

ただし、簡易宿所の営業許可は、面積だけを確認すれば取得できるものではありません。

建築、消防、衛生、自治体の条例などを事前に確認する必要があります。

この記事では、旅館業法の簡易宿所営業とは何か、基準緩和の内容、必要書類、申請までの流れを分かりやすく解説します。

相談事例|空き家を簡易宿所にしたい

大阪府内に空き家を所有しているAさんから、次のような相談がありました。

親から相続した戸建て住宅を使って、外国人観光客などを泊める宿泊施設を始めたいと思っています。

民泊新法では年間180日までと聞いたので、できれば年間を通して営業できる方法を探しています。

調べていると、旅館業法の『簡易宿所』なら許可を取って営業できると知りました。

ただ、旅館やホテルのような大きな施設ではありません。

10人も泊まらない小さな施設でも許可を取れるのでしょうか。

また、どんな書類を用意すればよいのでしょうか?

このような相談では、最初から申請書を書くのではなく、「その物件で簡易宿所営業が可能なのか」を先に確認することが重要です。

旅館業法では、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3種類があります。

簡易宿所営業は、宿泊する場所を多数人で共用する構造や設備を主とする施設です。

そして、施設の構造設備基準は法律だけでなく、自治体の条例によっても異なります。

旅館業法の簡易宿所営業とは?

旅館業とは、基本的に「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」です。

旅館業法では、旅館業を次の3種類に分類しています。

種類 主な特徴
旅館・ホテル営業 簡易宿所営業・下宿営業以外の宿泊施設
簡易宿所営業 多数人で共用する構造・設備を主とする宿泊施設
下宿営業 1か月以上の期間を単位として宿泊させる営業

住宅を利用した宿泊サービスでも、住宅宿泊事業法の届出や特区民泊の認定を受ける場合を除き、旅館業法上の許可が必要になるケースがあります。

簡易宿所なら年間180日の制限はない?

ここは民泊を検討する方がよく比較するポイントです。

住宅宿泊事業法による住宅宿泊事業には、年間180日という営業日数の上限があります。

一方、旅館業法による簡易宿所営業は、住宅宿泊事業法による「届出型の民泊」とは別の制度です。

そのため、「年間180日までしか営業できない」という住宅宿泊事業の上限を前提にした制度ではありません。

ただし、簡易宿所営業には、建築基準法、消防法、旅館業法、自治体条例など、複数のルールがあります。

「180日制限がないから簡易宿所にしよう」と決めるのではなく、物件が許可基準を満たせるかを確認する必要があります。

10人未満なら基準が緩和される場合がある

簡易宿所を検討するときに重要なのが、宿泊者数による客室面積の基準です。

旅館業法施行令では、簡易宿所営業の客室延床面積について、原則として33㎡以上とされています。

ただし、許可申請時に宿泊者数を10人未満とする場合は、3.3㎡に宿泊者数を掛けた面積以上とする基準があります。

申請時の宿泊者数 客室延床面積の基準
10人以上 原則33㎡以上
10人未満 3.3㎡ × 宿泊者数以上

例えば、宿泊者数を5人として申請する場合、国の施行令上は3.3㎡×5人で16.5㎡以上という考え方になります。

ただし、ここで注意してください。

「16.5㎡あれば必ず簡易宿所の許可が取れる」という意味ではありません。

自治体の条例やその他の構造設備基準も確認する必要があります。

簡易宿所の「基準緩和」は面積だけではありません

10人未満の施設については、面積だけでなく、衛生面の基準についても一定の緩和が可能とされています。

厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」では、10人未満として申請された簡易宿所について、公衆衛生上支障がないと認められる範囲で、基準の一部を緩和または適用しないことができるとされています。

ただし、すべての基準が自動的に免除されるわけではありません。

施設の状況や自治体の条例などによって扱いが変わります。

そのため、ネット上の「小規模ならこの設備は不要」という情報だけで判断するのは避けたほうがよいでしょう。

簡易宿所の営業許可に必要な主な確認事項

簡易宿所の営業許可では、客室面積以外にも確認するポイントがあります。

1.換気・採光・照明など

旅館業法施行令では、適切な換気、採光、照明、防湿、排水の設備などが求められています。

2.入浴設備

原則として、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備が必要とされています。

ただし、近くに公衆浴場があるなど、入浴に支障がないと認められる場合には例外があります。

3.洗面設備

宿泊者の需要を満たすことができる適切な規模の洗面設備も確認対象になります。

4.便所

適切な数の便所を設けることも基準の一つです。

5.自治体独自の基準

ここが特に重要です。

旅館業法施行令には、自治体が条例で構造設備の基準を定めることができる規定があります。

つまり、国の基準だけを確認して「これで許可が取れる」と判断することはできません。

営業許可申請までの流れ

簡易宿所を始める場合、一般的には次のような順番で確認します。

① 物件を確認

② 自治体の旅館業担当窓口へ事前相談

③ 建築関係を確認

④ 消防関係を確認

⑤ 必要な改修内容を確認

⑥ 必要書類を準備

⑦ 営業許可を申請

⑧ 施設検査など

⑨ 許可後に営業開始

自治体によって具体的な手順は異なります。

大阪市の場合、営業許可申請の前に事前届出が必要と案内されています。

大阪市の簡易宿所営業で必要になる主な書類

大阪市では、旅館業の営業許可申請について、さまざまな書類が案内されています。

主なものとして、次のような書類があります。

  • 旅館業許可申請書
  • 構造設備の概要
  • 構造設備確認票
  • 建築基準法に基づく検査済証の写し等
  • 消防法令に基づく適合通知書
  • 営業施設の付近見取図
  • 配置図
  • 各階の平面図
  • 立面図
  • 給排水系統図
  • 周知実施報告書等
  • 客室内に設置する注意事項
  • その他、自治体が求める資料

法人が営業者になる場合には、登記事項証明書や役員等の名簿も必要になります。

使用する水が水道水以外の場合には、水質検査成績書などが必要になる場合もあります。

必要書類は施設の状況によって増えることがあります。

そのため、上記の一覧だけで「これですべて」と判断しないことが重要です。

建築と消防の確認を先に行う理由

簡易宿所の申請で大きなポイントになるのが、建築と消防です。

大阪市では、営業許可申請の添付書類として、建築基準法に基づく検査済証の写し等や、消防法令に基づく適合通知書が案内されています。

つまり、旅館業の申請書だけを準備しても、施設側の条件が整っていなければ営業開始には進めません。

特に中古住宅や古い空き家を改修する場合は注意が必要です。

「空き家だから簡易宿所にできる」のではなく、現在の建物が宿泊施設として利用できる状態かを確認する必要があります。

大阪市では改修工事前の手続きにも注意

大阪市では、旅館業施設の改修などを計画する場合、旅館業規制指導要綱に基づく「改修工事計画届」の手続きが案内されています。

その際には、構造設備の概要、構造設備確認票、変更内容が分かる図面などを提出することになっています。

これは、簡易宿所を始めるために建物を改修しようとする方にとって重要なポイントです。

「先に工事して、後から許可を取ればいい」と考えないことが大切です。

予定している工事が許可基準に合わなければ、追加工事が必要になる可能性があります。

簡易宿所の営業許可申請を行政書士に依頼する場合

簡易宿所の申請では、単純に申請書へ住所を書いて提出するだけではありません。

施設の図面、建築関係、消防関係、衛生面、自治体条例など、多くの確認事項があります。

そのため、行政書士へ相談する場合には、最初の段階から物件情報を伝えることが重要です。

相談時に用意しておきたい資料

・物件の住所
・建物の種類
・建物の図面
・登記事項が分かる資料
・賃貸物件なら賃貸借契約書
・マンションなら管理規約
・現在の写真
・改修予定があれば、その内容
・予定している宿泊者数

これらを用意しておけば、簡易宿所として利用できる可能性について、確認すべきポイントを整理しやすくなります。

なお、建築士や消防設備関係者など、行政書士以外の専門家による確認が必要になる場合もあります。

簡易宿所を始める前のチェックリスト

確認項目 確認するポイント
用途 宿泊施設として利用できるか
面積 宿泊者数に応じた基準を満たすか
建築 建築基準法上の確認ができているか
消防 消防法令上の必要な設備等を確認したか
衛生 換気・採光・入浴・洗面・便所等を確認したか
条例 所在地の自治体独自の基準を確認したか
書類 図面や各種証明書を準備できるか
工事 必要な事前手続きを確認したか

まとめ|簡易宿所は「許可を取れる物件か」の確認が先

旅館業法の簡易宿所営業は、住宅宿泊事業とは異なる仕組みで宿泊施設を運営する方法です。

特に10人未満で申請する場合には、客室延床面積について、3.3㎡に宿泊者数を掛けた面積以上とする基準があります。

ただし、これは面積だけを満たせば許可されるという意味ではありません。

建築、消防、衛生、自治体条例などを含めて確認する必要があります。

大阪市でも、営業許可申請には建築基準法関係の書類、消防法令に基づく適合通知書、図面など、多くの資料が必要とされています。

これから空き家や住宅を簡易宿所として活用したい方は、まず「この物件で許可を取得できるのか」を確認してください。

物件を購入したり、大規模なリフォームを始めたりする前に相談することが、余計な工事や手戻りを避けるポイントになります。

著者の一言

今回、簡易宿所について調べて感じたのは、ネット上で「10人未満なら3.3㎡」という数字だけが目立ってしまいやすいことです。

確かに重要な基準ですが、それだけで許可が決まるわけではありません。

実際には、建物、消防、衛生、条例などを一つずつ確認する必要があります。

だからこそ、私は「工事を始める前に相談する」ことが大切だと考えています。

制度を先に確認して、できることとできないことを整理する。

そのうえで必要な専門家と一緒に進めれば、空き家を宿泊施設として活用する道も検討できます。

この記事が、これから簡易宿所を始めようとしている方の最初の確認材料になれば幸いです。

次回予告

次回は、相談案件No.113「民泊物件の建築基準法適合確認|用途変更が必要なケースと対策」を取り上げます。

民泊や簡易宿所を始めるとき、旅館業法だけを確認していてはいけません。

次回は、建築基準法との関係、用途変更が問題になるケース、確認しておきたいポイントについて、分かりやすく解説します。

それでは、次回の記事でお会いしましょう。