農家民泊・農泊の手続きと要件|地域活性化に向けた許認可ガイド

民泊
農家民泊や農泊を始めたい場合、「農家だから自由に宿泊客を受け入れられる」というわけではありません。

実際には、どのような形で宿泊させるのかによって、旅館業法や住宅宿泊事業法など、確認する制度が変わります。

この記事では、農家民泊と農泊の違いから、宿泊施設として営業する場合の手続き、農林水産省の支援制度、行政書士に相談するときのポイントまで整理します。

農家民泊・農泊についてよくある相談

相談者:
実家が農家なのですが、空いている部屋を使って、都会から来る人に農業体験をしてもらいながら泊まってもらいたいと思っています。

これを「農泊」として始めることはできますか?

行政書士:
農泊という取り組み自体は、農山漁村に宿泊して、地域の食事や農業体験などを楽しんでもらう「農山漁村滞在型旅行」を指します。

ただし、実際に宿泊料を受け取って宿泊させる場合には、農泊という名前だけで許可が不要になるわけではありません。

どの法律に基づいて宿泊事業を行うのかを確認する必要があります。

相談者:
では、農家民泊なら特別な制度があるのでしょうか?
行政書士:
ここが少し分かりにくいところです。
「農泊」は旅行や地域づくりの取り組み全体を表す言葉で、宿泊部分については旅館業法による農家民宿や、住宅宿泊事業法による民泊など、別の制度を利用する場合があります。

そのため、最初に「何をしたいのか」「どのような施設で宿泊させるのか」を整理することが大切です。

農泊とは何なのか?

農林水産省では、「農泊」を、農山漁村に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」と説明しています。

つまり、農泊は単純に「農家の家に泊まること」だけを意味するものではありません。

例えば、次のような地域資源を組み合わせた滞在が考えられます。

  • 農業体験
  • 収穫体験
  • 郷土料理
  • 地域の食材を使った食事
  • 古民家での宿泊
  • 地域の伝統文化体験
  • 自然体験
  • 地域住民との交流

農林水産省も、農泊を地域の所得向上や関係人口の創出につなげる取り組みとして推進しています。

ポイント

「農泊」は、宿泊施設そのものの営業許可の名前ではありません。
宿泊・食事・体験などを組み合わせた農山漁村での滞在型旅行という考え方として理解すると分かりやすいでしょう。

農家民泊と農泊は同じではない

ここは、これから始める方が特に注意したいところです。

「農家民泊」と「農泊」という言葉は似ていますが、同じ意味ではありません。

項目 意味
農泊 農山漁村で食事や体験などを楽しむ滞在型旅行
農家民宿 農業者などが宿泊施設を運営する事業形態
住宅宿泊事業 住宅宿泊事業法に基づく民泊

農林水産省の資料では、農家民宿について、農業経営体が旅館業法に基づく許可を得て観光客などを宿泊させ、自ら生産した農産物や地域の食材を使った料理を提供する事業として整理されています。

したがって、「農家だから農家民宿としてすぐ営業できる」ということではありません。

農家民泊を始めるときに最初に確認すること

農家民泊を検討する場合、いきなり申請書を書くのではなく、まず事業の形を整理します。

①誰を宿泊させるのか

例えば、一般の観光客なのか、修学旅行などの団体なのか、外国人旅行者なのかによって、必要となる設備や運営方法の検討事項が変わる場合があります。

②どの建物を使うのか

自宅の一部なのか、離れなのか、古民家なのか、別棟なのかを確認します。

建物の用途や構造によって、確認すべき法令や行政手続きが変わる可能性があります。

③宿泊料を受け取るのか

宿泊料を受け取って人を宿泊させる場合、旅館業法や住宅宿泊事業法などの検討が必要になります。

「農業体験だから宿泊事業ではない」と自己判断するのは危険です。

④食事を提供するのか

農家であれば自分で作った野菜などを使いたくなると思います。

しかし、宿泊者に食事を提供する場合は、宿泊の制度とは別に食品衛生関係の確認が必要になることがあります。

「宿泊」と「食事」は分けて確認することがポイントです。

宿泊の方法によって確認する制度が変わる

農泊を始める際に重要なのが、宿泊方法の選択です。

農林水産省の農泊に関する資料でも、農泊の宿泊方法として旅館業法による宿泊施設、住宅宿泊事業法による民泊、自治体のガイドライン等に基づく体験宿泊などが整理されています。

代表的な考え方を整理すると、次のようになります。

方法 主な制度 確認するポイント
農家民宿 旅館業法 営業許可、施設基準など
住宅を利用した民泊 住宅宿泊事業法 届出、住宅要件、営業日数など
農泊地域の宿泊施設 実際の宿泊形態による 地域全体の体制と各施設の法令確認

住宅宿泊事業法では、住宅宿泊事業の届出制度などが設けられています。一方、旅館業については旅館業法に基づく営業許可が基本となります。

そのため、「農泊をするから住宅宿泊事業法で届け出ればよい」と最初から決めつけないことが大切です。

農家民宿で確認したい旅館業法

農家が宿泊料を受け取って旅行者を宿泊させる場合、旅館業法に基づく営業を検討するケースがあります。

農林水産省の資料でも、農家民宿は旅館業法に基づく許可を得て宿泊させる事業として整理されています。

特に確認したいのは次のような事項です。

  • 営業形態
  • 施設の構造
  • 客室
  • トイレ
  • 浴室
  • 洗面設備
  • 衛生管理
  • 消防関係
  • 建築関係
  • 食事提供の方法

ただし、具体的な基準は地域や営業形態によって確認が必要です。

「農家民宿だから全国どこでも同じ設備でよい」と考えないようにしましょう。

住宅宿泊事業法による民泊という方法もある

農家の住宅を活用する場合、住宅宿泊事業法による民泊が選択肢になる場合もあります。

住宅宿泊事業法は、住宅を利用して宿泊サービスを提供する場合の届出制度などを定めています。

ただし、住宅宿泊事業には営業日数の制限などがあります。

また、自治体によって条例などによる独自の制限が設けられている場合があります。

注意

農村地域だから住宅宿泊事業の規制がない、という意味ではありません。

住宅宿泊事業を選択する場合も、所在地の自治体の条例・ルールを必ず確認してください。

ここは、農泊・農家民宿・住宅宿泊事業の違いが一気に出てくるため、文章だけでは読者が混乱しやすいポイントです。

農泊を地域全体で取り組むという考え方

農泊は、一軒の農家だけで完結する取り組みとは限りません。

例えば、

  • 農家が宿泊施設を提供する
  • 別の事業者が食事を提供する
  • 地域の農家が農業体験を提供する
  • 地域団体が観光案内を行う
  • 古民家を宿泊施設として活用する

というように、地域内のさまざまな人や事業者が関わることがあります。

農林水産省も、農泊を地域資源を活用した観光として推進し、地域の所得向上や関係人口の創出につなげる取り組みを進めています。

農泊には支援制度もある

農泊に取り組む地域や事業者に関係する支援制度として、農林水産省の農山漁村振興交付金「農泊推進型」があります。

令和8年度も農泊推進型が設けられており、農泊の推進体制づくり、観光コンテンツの開発、古民家などを活用した滞在施設の整備などを支援する仕組みがあります。

ただし、交付金は誰でも個人で自由に申請すれば受け取れるというものではありません。

公募時期や対象事業、申請主体、事業内容などを確認する必要があります。

令和8年度についても公募・追加公募や採択結果が公表されています。

補助制度を考えるときのポイント

「補助金があるから農泊を始める」のではなく、まずどのような農泊を行いたいのか、地域で何を提供するのかを決めます。

そのうえで、利用できる支援制度があるか確認する順番がおすすめです。

農家民泊を始める前のチェックリスト

実際に準備を始めるなら、次の項目から確認すると整理しやすくなります。

確認項目 確認する内容
建物 自宅・古民家・離れなど、どの建物を使うか
宿泊 誰を何人程度、どのように泊めるか
営業方法 旅館業法か住宅宿泊事業法かなどを確認
消防 必要な設備・手続きの確認
建築 用途や建物関係の確認
食事 食事提供に関する衛生関係の確認
地域 自治体の条例・独自ルールの確認
体験 農業体験・食文化・自然体験などの内容
支援制度 農泊関連の補助・支援制度の確認

行政書士に相談するときは何を準備する?

行政書士へ相談する場合、最初から完璧な事業計画を作っておく必要はありません。

むしろ、次のような情報が分かると相談が進みやすくなります。

  • 物件の所在地
  • 建物の種類
  • 築年数
  • 使用予定の部屋
  • 宿泊予定人数
  • 宿泊料金の予定
  • 食事提供の有無
  • 農業体験の内容
  • 営業予定日数
  • 自治体名

特に重要なのは「何をしたいのか」を具体的に伝えることです。

例えば、「空き家を使って農泊をしたい」だけではなく、

「築30年の戸建ての一部を使い、4人程度を宿泊させ、朝食を提供し、翌日に農業体験をしてもらいたい」

というところまで分かれば、確認すべき事項を整理しやすくなります。

農家民泊・農泊は「許可」だけを考えない

農泊を始めるとき、どうしても「許可が取れるか」という部分に目が行きます。

もちろん許認可は重要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。
宿泊者に何を体験してもらうのか。
地域の食をどう提供するのか。
誰がチェックインや案内をするのか。
緊急時には誰が対応するのか。
地域の住民との関係をどう築くのか。

こうした「運営体制」まで考えておくことが、農泊を続けていくうえでは重要です。

まとめ|農泊は「宿泊許可+地域の魅力」を考える

今回調べてみて、農泊で最初に理解しておきたいのは、「農泊」と「宿泊営業の許認可」は別の話だということでした。

農泊は、農山漁村に宿泊し、食事や体験など地域資源を楽しむ滞在型旅行です。

その一方で、実際に宿泊料を受け取って宿泊させる場合には、旅館業法や住宅宿泊事業法など、実際の営業形態に応じた確認が必要になります。

ですから、農家民泊を始めるときは、

  1. どんな人を泊めるのか
  2. どの建物を使うのか
  3. どの制度で宿泊事業を行うのか
  4. 消防・建築・衛生関係をどう確認するのか
  5. 農業体験や食事をどう組み合わせるのか
  6. 地域全体でどのような取り組みにするのか

という順番で考えていくと整理しやすくなります。

公式情報・参考リンク

農泊の制度や支援については、農林水産省の「農泊の推進について」を確認できます。

また、農山漁村振興交付金についても、農林水産省の最新情報を確認してください。

住宅を利用した民泊については、観光庁の住宅宿泊事業法のページが基本的な確認先になります。

参考にした公式ページ:
農林水産省「農泊」の推進について
農林水産省「農山漁村振興交付金」
観光庁「住宅宿泊事業法(民泊)」

著者の一言

今回、農泊について調べていて感じたのは、「農家民泊をやりたい」という気持ちだけで始めるのではなく、最初に自分がやりたいことを具体的に書き出すことが大切だということです。

「空いている部屋を使いたい」から始まっても構いません。

そこから、誰に泊まってもらいたいのか、どんな農業体験をしてもらいたいのかを考えていくと、必要な手続きも少しずつ見えてきます。

制度が複数あるため、分からないところを一つずつ行政に確認しながら進めることが、結果的には近道になると思います。

次回予告

次回は、相談案件No.119「民泊ビジネスの初期費用と許認可申請にかかる行政書士費用相場」を取り上げます。

民泊を始めるには、物件の準備費用だけでなく、許認可や申請にかかる費用も考えておかなければなりません。

「結局、民泊を始めるにはいくら必要なのか?」という疑問を、項目ごとに整理していきます。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。