空き家を活用した民泊ビジネスの始め方|許可取得のハードルと解決策

民泊

「使っていない実家を民泊にできないだろうか?」

相続した実家や、親が住んでいた家、長期間使っていない戸建てなどを見て、そう考える方が増えています。

しかし、空き家だからといって、そのまま民泊として営業できるわけではありません。

民泊を始めるには、住宅宿泊事業法による届出、旅館業法による許可など、物件や営業方法に応じた制度を選び、さらに建築・消防・自治体条例・近隣環境などを確認する必要があります。

この記事では、空き家を民泊に活用するときに、最初に何を確認すればよいのか、行政書士へ相談する場合のポイントまで分かりやすく解説します。

相談内容例:「相続した空き家を民泊にできますか?」

相談者:
「父から相続した一戸建てがあります。現在は誰も住んでいません。売却するか迷っているのですが、民泊として使う方法もあると聞きました。空き家なら民泊にできるのでしょうか?」
行政書士:
「空き家を民泊に活用することは考えられます。ただし、空き家であることだけで民泊営業が認められるわけではありません。まず、その建物が住宅宿泊事業の対象となる住宅なのか、旅館業の許可を取る営業なのかを確認する必要があります。」
相談者:
「住宅宿泊事業と旅館業では何が違うのですか?」
行政書士:
「住宅宿泊事業法による民泊は年間180日という営業日数の上限があります。一方、旅館業法の簡易宿所として営業する場合は、旅館業の許可が必要になります。さらに自治体によって営業できる区域や期間などのルールが異なる場合があります。」
相談者:
「建物が古いのですが、それも問題になりますか?」
行政書士:
「重要な確認事項です。建築基準法や消防法令への適合状況を確認する必要があります。特に古い空き家の場合、現在の用途や建物の状態によって、改修が必要になるケースがあります。」
相談者:
「では、最初に何を調べればいいのでしょうか?」
行政書士:
「物件の所在地、建物の種類、築年数、現在の用途、所有関係、自治体の民泊条例、消防、建築関係を順番に確認しましょう。最初から設備工事を始めるのではなく、営業できる可能性を調査してから進めることが大切です。」

空き家なら必ず民泊にできるわけではありません

ここが、空き家を民泊に活用するときの最初のポイントです。

「空き家=民泊可能」ではありません。

住宅を利用して宿泊料を受けて人を宿泊させる場合、営業形態に応じて、住宅宿泊事業法による届出、旅館業法による許可などが必要になります。

大阪市も、住宅や空き家などを活用して宿泊料を受けて人を宿泊させる営業について、旅館業法の許可、特区民泊の認定、住宅宿泊事業法の届出など、該当する制度による手続きが必要と案内しています。

空き家民泊で最初に比較したい3つの制度

制度 基本的な特徴 確認するポイント
住宅宿泊事業 住宅宿泊事業法に基づく届出 年間180日上限、自治体条例、住宅要件
旅館業・簡易宿所 旅館業法に基づく営業許可 施設基準、消防、建築、衛生など
特区民泊 国家戦略特区制度を利用 実施自治体・制度の対象地域・条例

ただし、制度の利用可否は地域によって異なります。

例えば大阪市では、2026年5月29日をもって特区民泊の新規申請および居室追加等の変更申請の受付を終了しています。

したがって、現在大阪市で空き家を活用する場合には、住宅宿泊事業や旅館業など、利用可能な制度を確認する必要があります。

「以前は特区民泊ができた」という情報だけを頼りに判断しないことが重要です。

空き家を民泊にするなら「物件調査」が最初

空き家を民泊に活用したいと思ったら、いきなり内装工事を始めるのではなく、まず物件調査を行います。

確認したい基本情報

  • 物件の所在地
  • 土地・建物の所有者
  • 建物の種類
  • 築年数
  • 現在の用途
  • 建物の延べ面積
  • 各階の面積
  • 接道状況
  • 上下水道などの設備状況
  • 自治体の民泊条例
  • 消防設備の状況
  • マンションの場合は管理規約

特に相続した空き家では、所有者が誰になっているのかを確認することも重要です。

相続登記が済んでいない、共有名義になっている、土地と建物の名義が異なるといった事情がある場合は、民泊以前に権利関係の整理が必要になることがあります。

空き家民泊で注意したい「住宅」の条件

住宅宿泊事業法による民泊を検討する場合、単に建物が住宅として建てられていたというだけではなく、法律上の「住宅」に該当するかを確認する必要があります。

住宅宿泊事業法では、住宅宿泊事業の対象となる住宅について、設備や居住の実態などに関する要件が定められています。

そのため、長期間誰も利用していない空き家については、「以前は人が住んでいたから大丈夫」と決めつけず、現在の状態を確認することが重要です。

空き家の状態を確認する

確認事項 チェックする内容
居住設備 台所、浴室、便所、洗面設備など
建物状態 雨漏り、老朽化、腐食など
電気 電気設備が使用できるか
給排水 水道・排水設備に問題がないか
安全性 避難経路などに問題がないか

古い空き家の場合は、民泊の届出以前に建物そのものの安全性を確認する必要があります。

古い空き家ほど「消防」を先に確認する

空き家を民泊にするときに忘れてはいけないのが消防です。

観光庁は現在も、住宅宿泊事業を開始する際には消防法令を遵守する必要があり、届出前に管轄の消防署等へ相談するよう案内しています。

消防法令に適合していない状態で営業を開始した場合、住宅宿泊事業法に基づく業務停止命令等の対象となる場合もあります。

特に築年数が古い空き家では、現在の設備が民泊として利用する場合の消防上の基準を満たしているとは限りません。

消防署への事前相談で確認する

空き家を民泊にする場合には、次のような資料を用意して、管轄消防署へ事前相談することをおすすめします。

  • 建物の所在地
  • 建物の平面図
  • 各階の面積
  • 宿泊室の位置
  • 建物の構造
  • 現在設置されている消防設備
  • 改修予定の内容

必要となる消防設備は、建物の構造や規模、営業形態などによって変わるため、一般論だけで判断するのは危険です。

建築基準法の確認も必要

消防と同じくらい重要なのが建築関係です。

空き家を宿泊施設として利用する場合、建物の用途や規模、地域などによって建築基準法上の確認が必要になる場合があります。

特に古い戸建てでは、増築や改修が過去に行われていることがあります。

「昔からこの状態で使っているから問題ない」と考えるのではなく、現在の建物がどのような状態なのかを確認しましょう。

こんな空き家は早めに専門家へ相談

  • 築年数がかなり古い
  • 増築・改築の履歴が分からない
  • 図面が残っていない
  • 用途が現在どうなっているか分からない
  • 長期間使用していない
  • 雨漏りや建物の傷みがある
  • 狭い道路に面している

建築関係の判断については、必要に応じて建築士などの専門家に確認することになります。

自治体の条例を必ず確認する

住宅宿泊事業法だけを確認して、「これで営業できる」と考えてはいけません。

自治体は、住宅宿泊事業法に基づいて、地域の実情に応じた営業区域や期間などを条例で定めることがあります。

例えば大阪市では、住宅宿泊事業について独自の条例を設け、実施区域や期間の制限を行っています。

さらに大阪市では、届出時に周辺住民等への説明を実施した旨の書類、消防法令適合通知書、廃棄物の処理方法に関する書類なども確認対象となっています。

つまり、空き家民泊では、

「国の法律」+「自治体の条例・運用」+「建築・消防などの関係法令」

をまとめて確認する必要があります。

空き家を民泊にするまでの基本的な流れ

全体の流れを簡単に整理すると、次のようになります。

① 空き家の現状確認

② 所有関係・権利関係の確認

③ 自治体の民泊ルール確認

④ 住宅宿泊事業・旅館業など制度を選択

⑤ 建築・消防の事前確認

⑥ 必要な改修・設備工事

⑦ 近隣住民への説明等

⑧ 届出・許可申請

⑨ 営業開始

実際の順序や必要書類は自治体や営業形態によって変わります。

だからこそ、最初に自治体や関係部署へ相談し、必要な手続きを洗い出してから改修工事を進めることが重要です。

空き家民泊でありがちな「先に工事してしまう」失敗

空き家を民泊にしようとすると、まず内装をきれいにしたくなります。

壁紙を張り替え、浴室をリフォームし、家具を購入し、宿泊者用のベッドを設置する。

しかし、ここには注意が必要です。

営業できるかどうかを確認する前に大きなお金をかけてしまうと、後から追加工事が必要になったり、計画そのものを変更せざるを得なくなったりする可能性があります。

例えば、消防設備の追加、避難経路の確保、建築上の対応などが必要になれば、当初予定していた予算を超えることがあります。

おすすめは「調査→確認→見積もり→工事」の順番

順番 やること
1 民泊として利用できる可能性を調べる
2 自治体・消防・建築関係を確認する
3 必要な改修内容を整理する
4 工事費用を見積もる
5 採算性を確認する
6 工事・手続きを進める

この順番にすると、「民泊にできると思って工事したのに、別の問題が見つかった」というリスクを抑えやすくなります。

年間180日の制限も忘れない

住宅宿泊事業法による民泊を選択する場合、年間の営業日数には上限があります。

住宅宿泊事業では、1年間で提供できる日数が180日を超えない範囲とされています。大阪市も2026年現在、年間提供日数の上限を180日と案内しています。

そのため、空き家を「一年中宿泊施設として運営したい」という場合には、住宅宿泊事業だけで事業計画を作るのではなく、旅館業法による営業許可など、別の制度についても検討する必要があります。

ただし、旅館業の許可を取得すれば必ず営業できるという意味ではありません。

用途地域、建築、消防、衛生、自治体条例など、別の確認が必要になります。

空き家の所有者が注意したい権利関係

相続した空き家を民泊にする場合には、建物の所有権だけでなく、相続関係や共有関係も確認しておきましょう。

共有名義になっている場合

兄弟など複数人で相続している場合、所有者が一人ではないことがあります。

その場合、民泊事業を始める前に、共有者との合意や必要な承諾について確認しておく必要があります。

「自分が代表して管理しているから大丈夫」と自己判断せず、権利関係を整理しておきましょう。

賃貸物件の場合はさらに注意

空き家を所有しているのではなく、借りて民泊を行う場合には、賃貸人からの承諾などが問題になります。

大阪市の住宅宿泊事業の案内でも、賃借人の場合には賃貸人が転貸を承諾したことを証する書類、転借人の場合には賃貸人および転貸人の承諾を証する書類が添付書類として挙げられています。

空き家を借りて民泊にする場合は、契約書を確認するところから始めましょう。

空き家民泊の近隣対策も忘れない

前回の記事でも解説したように、民泊は建物の手続きだけ終わればよいわけではありません。

空き家だった住宅に、旅行者が出入りするようになれば、周辺住民の生活環境にも影響する可能性があります。

そのため、騒音、ごみ、喫煙、駐車、深夜の出入りなどについて、事前に対策を準備しておきます。

大阪市の住宅宿泊事業では、周辺住民等への説明を実施した旨の書類も届出時の確認書類として示されています。

前回の「民泊の近隣トラブル対策」の記事と合わせて確認しておくと、空き家民泊の準備をより具体的に進められます。

行政書士に相談するメリット

空き家民泊の準備では、確認することが非常に多くあります。

「住宅宿泊事業の届出だけお願いしたい」というケースでも、実際には消防、建築、条例、近隣説明などの確認が必要になることがあります。

行政書士に相談する場合は、単に届出書を作成してもらうだけではなく、「この空き家で、どの制度を利用して民泊を始められるのか」という入口から相談するとよいでしょう。

相談時に準備しておきたい資料

  • 建物の所在地
  • 登記事項証明書など所有関係が分かる資料
  • 建物の図面
  • 築年数
  • 固定資産税関係の資料
  • 現在の建物写真
  • 改修予定があればその内容
  • 営業予定日数
  • 家主居住型・家主不在型の予定
  • 自治体から取得した資料

資料が全部そろっていなくても相談はできますが、資料が多いほど、問題点を早く見つけやすくなります。

行政書士だけで判断できない部分もある

ここも重要です。

民泊の手続きだからといって、すべてを行政書士だけで判断できるわけではありません。

問題 相談先の例
住宅宿泊事業の届出 行政書士・自治体窓口
旅館業許可 行政書士・自治体窓口
消防設備 消防署・消防設備業者
建築関係 建築士・自治体建築担当部署
相続・登記 司法書士など
税務 税理士

行政書士は、必要に応じてこうした専門家との連携を含め、手続きを整理する役割を担うことができます。

空き家民泊を始める前のチェックリスト

確認項目 チェック
所有者・相続関係を確認した
建物の用途を確認した
築年数・建物状態を確認した
自治体の民泊条例を確認した
住宅宿泊事業と旅館業を比較した
消防署へ事前相談した
建築関係を確認した
近隣住民への説明について確認した
必要な改修費用を見積もった
年間の営業日数を検討した
収支計画を作成した
必要な届出・許可を確認した

まとめ|空き家民泊は「できるかどうか」を先に調べる

空き家を民泊として活用することは、使っていない住宅を有効利用する方法の一つです。

しかし、空き家だから簡単に民泊を始められるわけではありません。

まず、住宅宿泊事業法による届出なのか、旅館業法による許可なのかなど、利用する制度を検討します。

そして、自治体の条例、建築、消防、近隣住民への説明、所有関係などを順番に確認していきます。

特に大切なのは、工事や設備購入より先に「この物件で民泊ができるのか」を確認することです。

古い空き家の場合には、消防設備や建築関係の対応によって予想以上の費用が必要になる可能性もあります。

そのため、最初に専門家や自治体へ相談し、必要な手続きを整理してから事業計画を作ることをおすすめします。

著者の一言

空き家を見ると、「せっかくの家なのだから何かに使えないか」と考える方は多いと思います。

民泊はその選択肢の一つですが、私は「とりあえずリフォームして民泊にしよう」と考えるのではなく、まず「この建物で、本当に営業できるのか?」を調べることをおすすめします。

特に相続した古い家は、所有関係、建物、消防、自治体のルールなど、確認することがいくつもあります。

一つずつ確認していけば、必要なことは整理できます。

空き家を民泊に活用するなら、最初の一歩は「工事」ではなく「調査」です。

次回予告

次回は、相談案件No.111「特区民泊とは?対象地域や最低滞在日数のルールと申請メリット」を取り上げます。

民泊には住宅宿泊事業法だけでなく、特区民泊という制度もあります。

ただし、特区民泊はどこでも利用できるわけではなく、対象地域や自治体の制度を確認する必要があります。

次回は、特区民泊の仕組み、対象地域、最低滞在日数、申請方法などを整理して解説します。


記事内リンクについて

No.107「自治体の民泊上乗せ条例とは?地域別の営業規制と事前確認の手順」
No.108「民泊の消防設備基準とは?消防法令適合通知書を解説」
No.109「民泊の近隣トラブル対策|事前説明と苦情対応体制の構築方法」

公的資料・外部リンク


不確実な点: 空き家が住宅宿泊事業の対象となるか、必要な消防・建築対応、自治体独自の営業制限は、物件ごと・自治体ごとに異なります。記事では全国一律の基準として断定していません。

反対意見・リスク: 住宅宿泊事業なら年間180日という制限があるため、空き家を年間を通じて宿泊施設として運営したい場合には、別の制度を検討する必要があります。また、古い建物では改修費用が想定以上になる可能性があります。

追加で考慮すべき論点: 次のNo.111では、特区民泊を扱います。ただし制度の実施状況は自治体によって変わるため、2026年9月時点の対象地域・最低滞在日数・申請制度を改めて最新の自治体情報で確認して執筆する必要があります。